2025年9月2日火曜日

陶芸家インタビュー|作品に込める想いと制作の裏側

 

陶芸家インタビュー|作品に込める想いと制作の裏側

陶芸講師の亀井俊哉(かめいとしや)です。私は10年以上、全国の陶芸展やギャラリーで作品を発表し、陶芸教室の指導も行ってきました。陶芸家として活動していると、「作品にはどんな想いを込めているのですか?」「制作の裏側はどんなことをしているのですか?」という質問を多くいただきます。

今回は、自身の活動を通して陶芸家が作品に込める想い、そして作品が生まれるまでの裏側を専門的にお伝えします。


陶芸家が作品に込める「想い」とは

陶芸は、器やオブジェなど「形のあるもの」を作る手仕事です。ですが、完成した作品は単なる物体ではありません。作り手の美意識や人生観が滲み出る、言わば「メッセージの塊」だと私は考えています。

1. 日常に寄り添う器

私が器を作るとき、まず意識しているのは「日常で使いたくなるかどうか」です。陶芸作品は使われてこそ本領を発揮します。食卓に置いたときの雰囲気や料理の映え方、手に持ったときの重さや口当たり……こうした細やかな使い心地を大切にしています。

例えば、カップなら手のひらに収まるサイズ感と持ちやすい取っ手の形、口縁の厚みを意識します。器の縁が厚すぎると飲み口が重たく感じられますし、薄すぎると割れやすくなります。「使いやすさ」と「耐久性」のバランスを考えるのは、陶芸家にとって重要なポイントです。

2. 土や釉薬が持つ自然の美しさ

陶芸は土や釉薬、火という自然の要素が作品の表情を決めます。同じ釉薬でも焼成条件のわずかな違いで発色が変わり、偶然の美しさが生まれます。

私はその「偶然性」を大切にしながらも、思い描いた雰囲気に近づけるため、窯の中での置き位置や釉薬の厚みを何度も試します。自然の力と対話する感覚が、陶芸家の醍醐味だと感じています。

3. 作品に込める物語性

陶芸作品は実用性だけでなく、アート作品としての表現力も求められます。私は器やオブジェに「自分の体験や記憶、感情」を込めることが多いです。

例えば、ある花器シリーズでは、旅先で見た山の稜線の美しさをイメージして成形しました。器の曲線や釉薬の流れに、あのときの感動を重ねるように制作しています。見る人がその背景を知らなくても、作品から自然や景色を感じてもらえることが理想です。


制作の裏側|作品が生まれるまでのプロセス

陶芸作品が完成するまでには、多くの工程があります。それぞれの工程には試行錯誤があり、作品の質を決定づける大切な作業です。


1. デザイン・構想

まずは作品のコンセプトを決めます。器の場合は「どんな料理に合うか」「日常使いか特別な場面向けか」、オブジェの場合は「何を表現したいのか」というテーマを固めます。

私はスケッチを描くことが多いですが、必ずしも絵にする必要はありません。頭の中で形や質感をイメージできるまでじっくり時間をかけます。


2. 土の選定と調整

陶芸の素材である「土」は作品の性質を決める重要な要素です。

  • 信楽土:ざらっとした質感で素朴な雰囲気

  • 磁器土:緻密で白色度が高く、シャープな作品向き

  • 半磁器土:陶土と磁器土の中間的性質で扱いやすい

私は作品のイメージに応じて土を使い分けます。さらに、水分量や硬さを整えるために土練りをしっかり行います。この段階で土が均質でないと、成形や焼成で歪みやひび割れの原因になります。


3. 成形

成形には電動ろくろや手びねり、型を使った方法などがあります。

  • ろくろ成形:正円で均整の取れた器が作れる

  • 手びねり:自由度が高く有機的な形が作れる

  • 型成形:シリーズものや複雑な形に向いている

私は器ならろくろを使うことが多いですが、オブジェでは手びねりや板づくりを組み合わせることもあります。成形の段階で、手の力加減やろくろの回転数を微妙に調整しながら、バランスの取れた形を追求します。


4. 乾燥と素焼き

成形後は急激に乾燥させるとひびが入るため、ビニールで覆ってゆっくり乾かします。乾燥の早さを見極めるのも経験が必要です。

乾燥したら800℃前後で素焼きを行います。素焼きによって土が硬化し、釉薬をかけやすくなります。


5. 施釉(釉薬掛け)

釉薬のかけ方は、作品の表情を大きく左右します。私は以下の方法を使い分けています。

  • 浸し掛け:作品全体を釉薬に浸す

  • 吹き付け:エアブラシで霧状に吹き付ける

  • 掛け流し:釉薬を部分的に流し掛ける

釉薬の厚みや重ね掛けの順番によって、焼き上がりの色や質感が変わります。試験片で何度もテストしてから本番に臨むのがポイントです。


6. 本焼き

釉薬をかけた作品を1230〜1300℃程度の高温で焼成します。窯の中の酸素の有無(酸化焼成・還元焼成)によっても発色が変わります。

窯の中では火の回り方や置き位置によっても色が変わるため、焼成は常に実験の連続です。同じ条件で焼いても結果が異なることがあるので、経験値が重要になります。


制作の中で大切にしていること

  1. 作品を使う人の視点に立つ
    器であれば、使いやすさや手触り、料理との相性を常に意識しています。

  2. 素材と向き合う
    土や釉薬の性質をよく知ること。自然素材である以上、想定外の変化も起きますが、それを受け入れつつ作品に活かします。

  3. 偶然性を楽しむ
    窯の中では完全にコントロールできない部分があり、それが陶芸の面白さです。想像以上の色や質感が出たときの感動は、他のものづくりにはない魅力です。


陶芸家としてのこれから

私はこれまで、多くの器やオブジェを制作してきましたが、まだまだ理想の形にはたどり着けていません。陶芸は終わりのない探求です。新しい釉薬の組み合わせを試したり、異素材との融合を模索したり、常に挑戦を続けています。

また、陶芸教室やワークショップを通して、作陶の楽しさを多くの人に伝える活動も大切にしています。初心者の方が自分の手で器を作り、完成した作品を使う喜びを感じている姿を見ると、私自身も大きな刺激を受けます。


亀井俊哉の陶芸学

陶芸家にとって作品は、自分の手や感性を通して生まれる「表現の結晶」です。日常で使える器としての機能性、美しさや物語性、そして素材や火との対話……そのすべてが重なり合って、一つの作品が完成します。

制作の裏側には、デザインの構想から成形、釉薬掛け、焼成まで多くの工程と試行錯誤があります。しかしその過程があるからこそ、完成した作品には深みと説得力が宿るのだと思います。

陶芸は、手を動かすたびに素材の表情や火の力に驚かされる、奥深い世界です。これからもその魅力を多くの方に伝えられるよう、作品づくりと発信を続けていきます。

陶芸家 亀井俊哉

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